こんにちは。または、はじめまして。
クロスバーと申します。普段はレノファ山口のレビューを書いております。今回【Qatar World Cup アーカイブ計画】の運営の方にお誘いいただき、このポーランド対サウジアラビアの試合のレビューを記させていただきます。
まず、なぜこの試合を選んだかというと、単純にバイエルンやバルセロナで得点を重ねるレヴァンドフスキがまだワールドカップで得点がないということもあり、彼を追ってみたかった。また、ポーランドとサウジアラビアは日本代表がワールドカップ本線・予選で近年試合をしたことがあるという国ということもあり、現在のアジアの立ち位置など知ることができるのではないか、というのが動機でした。
ところが!サウジアラビアはアルゼンチンを破り、日本もドイツを下すなどアジア勢が強国を破るアップセットがこの試合が行われる前に起きるなど、僕の当初の想像と違った状態で迎えたのがこの試合。
今大会最初のサプライズを起こしたサウジアラビアがどんな試合をするのか?メキシコにほぼPK以外得点チャンスを作れなかったポーランドはいかに。
ポーランド寄りの目線ではありますが、下記について考えていきたいと思います。
1)メキシコ戦では見れなかったサイドの奥を取る動き
2)黒子役の献身
3)エースの得点がトーナメントへ導くか。
得点
39分 ジエリンスキ
82分 レヴァンドフスキ
1)メキシコ戦では見れなかったサイドの奥を取る動き
この試合での両国のmatch week1からの変更は下記。
⇒CH6ビエリクやRSH7ミリクを起用し、4-4-2のフォーメーションに。
⇒キープレイヤーのCH7アルファラジ、LSB13アルシャハラニが怪我で離脱。
と、両チームともに数名のスタメン変更があった。
まずポーランド。ボール保持の局面では、この試合スタメンで起用されたCH6ビエリクがCBの間へおち、後ろを3枚にしてSBを押し上げる形に変更。レヴァンドフスキは基本ボールが自陣にある場合はサイドへ位置し、レヴァンドフスキの位置へはLSH7ミリクが入っていた。20ジエリンスキはクリホヴィアクと並んだり、ミリクとポジションを変える、レヴァンドフスキのフォローなど各所に気を配るような位置取りをした。
ポーランドは後ろから丁寧につなぐということはあまりせず、寄せられれば躊躇なくロングボールを送るスタイル。早速5分LCB14キヴィオルから7ミリクへロングパス。ミリク→LSH24フランコフスキ→LSBベレシンスキ→20ジエリンスキとつなぎニアゾーンをとるなどメキシコ戦では見られなかった連携を見せる。
ポーランドはこのようなサウジアラビアのSBの裏へボールを送り込む狙いは終始徹底されていたと思う。
前半はDFラインでのぼーる保持時にはレヴァンドフスキがサイドに位置取り、ロングボールを引き出していた。彼がここでボールを収めるのでそれを追い越していくジエリンスキやCFの位置にいたミリクがサイドの奥への侵入を数は少ないながらも試みていた。後半については後述。
対するサウジアラビアはアルゼンチン戦のような思い切った高さではなかったが、ハイプレス・ハイラインは継続。ポーランドのビルドアップの難もあり、ロングボールを蹴らせてサウジアラビアがそれを回収する場面が序盤は続いた。
サウジアラビアのボール保持時はアジア予選で見せていたようなCBとCHを交えてのビルドアップ。ポーランドも時間帯によっては前節同様ハイプレスを行い、ショートカウンターにつなげる場面もあったが、基本ポーランドの前線2人のプレスはあまり強くない。ハイプレスの場面も一時の現象であり、メキシコ戦でもアンカー4アルバレスへのマークはガバガバに近く、この試合でも23カンノ、8アルマルキへは簡単にボールが繋がっていた。ポーランドのセカンドラインがそこで奪いに行けば、サウジアラビアのドリブルを交えたライン間を使ってのパスワークに翻弄をされ、ピンチの場面が続いてしまった。そのため早々に後方でブロックを固めることへシフトチェンジ。メキシコ戦同様防戦一方になりそうな予感のする前半となっていった。
ところが、突如1つ目の【最初で最後のプレー】が発動する。
カメラに抜かれていたポーランドの監督ミフニェヴィチが懐からペンを取り出した瞬間だった(もちろんプレーと因果関係はない)。
38:40 サウジアラビアの10アルドサリの裏をとったRSB2キャッシュへGKシュチェスニーのミドルパス。キャッシュはダイレクトにこれをこの時間RSHにポジションを移動していた24フランコフスキへ送り、あっという間にセカンドラインを突破。キャッシュはオーバーラップをしていき、最終ラインの裏をとってクロス。中でレヴァンドフスキがシュートではなくボールをキープし、中のジエリンスキへ送り、これをジエリンスキがゴールへ突き刺した。この間約15秒。緩慢にハイプレスに来たサウジアラビアの裏を見事に突いてみせた。おそらくシュチェスニーからSBへのこのようなサウジアラビアのファーストラインを飛ばしたパスはこれが最初で最後であったと思う。用意していた奇襲ではなさそうだったが、右サイドの深い位置を取ることを目的としていたポーランドの狙いが結実した。
対するサウジアラビアも勢いは失わず、LCB5アルブライヒ→CH23カンノ→CF11アルシェハリ→OH16アルナージ→RSB12アブドゥルハミド→アルシェハリとつなぎPKを奪取。ライン間を交えた攻撃がついに得点となるかと思われた。が、ここでシュチェスニーが立ちはだかり、1-0ポーランドのリードで前半を終えた。
後半に入り、サウジアラビは両SBの位置を変更。アブドゥルハミドがLSBに入ることで、アルドサリがボールを受ける回数が増えた。それもあってかRCB4アルアムリからのサイドチェンジが5:20に出たのを皮切りに何度も大きな展開からポーランドゴールを襲っていく。
後半から入った18アルアビドや23カンノとともに攻撃の圧力を強めていき、9分には10アルドサリがカットインから18アルアビドへパスを送り、こぼれ球をアルドサリがシュート。続けざまに23カンノとのコンビネーションからアルドサリから9RSHアルブライカンが抜け出してのシュートなどサウジアラビアのゴールが時間の問題のように思えた。
しかし、ポーランドが交代策で流れを押し戻す。
2)黒子役の献身
63分に20ジエリンスキに替えて13カミンスキを投入した。この交代策の狙いはおそらく2つ。
1つはポーランドの右サイドをカミンスキにし、押し込むことで、アブドゥルハミドの上がりを牽制。
もう1つはLSH7ミリクを前に上げて守備の負担・役割から外すことだったと思う。
ポーランドは基本押し込まれた際、4-4ブロックを崩し、サイドハーフが最終ラインへ落ちて、5バックや6バックをとる。4-4をたもつのではなく、相手SBに合わせてSHの位置を設定する。
この試合ジエリンスキ、ミリク、フランコフスキは何回かポジションを入れ替えている。そしてこの時間帯はLSHミリクが入っており、約束事の通り相手に合わせて最終ラインに入ることはしていたが、正直ゆるいところがあり、サウジアラビアRSB6アルブライクを離してしまっていた。そのためカミンスキを右サイドに入れ、右サイドにいた24フランコフスキをまた左サイドへ。ミリクは前線へと仕事場を移した。
個人的にはこの交代は見事だったと思う。フランコフスキはミリクよりも守備のタスクはこなす上、交代直後のプレーでミリクへあわやゴールというクロスも上げている。また、ポーランドの狙いであった右サイドの裏についてカミンスキを入れることでもう一度狙いを定められたと思う。
形としてはクリホヴィアクからのロングボールがカミンスキに入る場面が増えたことが挙げられる。この交代でようやくクリホヴィアクの足から効果的に前線へボールが配給される状況が作れた。
65分にはFKからクリホヴィアクから13カミンスキへ一気にロングボールがとどき、ワンタッチで中へ。いきなりレヴァンドフスキの決定機をお膳立てしたほか、26分のように流れの中でもクリホヴィアクからカミンスキへとロングボールが渡るなど、サウジアラビアのハイラインを逆手に取るようなプレーがでるようになった。そのため流れをサウジアラビアに完全に持っていかれることなく、時計の針を進めることに成功していた。
ボールの非保持時でもポーランドの両SHは現代的なフットボールではないかとは思うが、やはり最終ラインまで落ちることでチームの役割を果たし、ポジティブトランジションとなれば、前線へと駆け上がっていっていた。
3)エースの得点がトーナメントへ導くか。
そしてポーランドの待望の瞬間が訪れる。ポーランドのCFのプレスがあまり強くないこともあり、サウジアラビアのダブルボランチである23カンノ、8アルマルキはDFラインに落ちてのビルドアップをすることはほぼなかった。あった場合もレヴァンドフスキを動かすために落ちたプレーだったはず。おそらく【最初で最後の】アルマルキの最終ラインへ落ちてボールを受けたプレーでコントロールミス。個人的な推測だが、アルマルキの表情を見る限り、そこまでレヴァンドフスキが迫っていると思っていなかったのではないか。サウジアラビアの最終ラインのミスを現代世界最高のセンターフォワードが見過ごさずこの試合を決めてみせた。
試合最中でありながら見せたレヴァンドフスキの涙は彼が今まで積み上げたキャリアで欲していたものを叶えた嬉しさと、国を背負って戦う大エースが見せた安堵感のようなものが混ざった、感動的なセレブレーションであった。(参照:下記URL WELT紙)
WM 2022: Nach seinem entscheidenden Tor weint Lewandowski auf dem Rasen - WELT
試合はこのまま2-0で終了。ライン間を使って攻撃をしていくサウジアラビアとロングボールを交えラインの裏を狙っていくポーランドの図式でスタッツにもそれがあらわれた試合であった。
ポーランドはこの試合も無失点で終え最終戦を迎える。2試合を終えて無失点なのはブラジル、モロッコ、ポーランドの3カ国のみである。塩試合、非現代的という言葉もtwitter上で見られるがこれもワールドカップの戦い方であり、守護神シュチェスニーと稀代の大エースレヴァンドフスキが引っ張るポーランドがアルゼンチンを抑えてグループリーグを突破するのか。個人的にはとても楽しみにしている。
サウジアラビアは破れはしたものの、勇敢な戦い方は気持ちの良いものであった上、なかなか乗り切れない日本に比べると、自分たちの色を出していることは好印象に映る。だからこそ彼らにも第3戦の勝利と決勝トーナメント進出を期待したい。
あれ?メッシにワールドカップを掲げてもらいたいとか言ってたじゃん!
そう。グループCは感情をぐるぐる揺さぶってくれる僕にとっては魅力的なグループになったのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
※文中敬称略