2試合連続無失点で迎えた今節。得点はできませんでしたが3試合連続の無失点という結果でした。
前回の栃木戦よりも守勢に回る時間は少なかったように思えます。ボール保持率がたかい藤枝を相手に、ボール支配率・パス成功数などがほぼ同じ数字が並んでいるところを考えれると、前半戦より相手にしっかり対応ができていたと思います。ゴール期待値も0.28に抑えていることも、危ない場面が少なかった証左かと思います。
J2 第23節 藤枝 vs 山口 ゴール期待値 | SPORTERIA
相手にあわせてプレスの仕方やフォーメーションを変えていく柔軟性のあるチームになりつつあり、そこに3試合連続無失点という結果もついてきています。
ただ、こうなると欲してしまうのは勝利。アウェイでしたし勝ち点1はOKではありますが、勝ち点3をとるためにもゴールという形も期待したくなるところではあります。
では今回は下記について考えていきます。
1)相手にあわせたプレスを。
2)五十嵐太陽:ライジング(未明)
得点者
藤枝 山口
なし なし
1)相手にあわせたプレスを。
今節のレノファの並びはボール保持時は4-1-2-3。ボール非保持時は5-4-1の形をとっていました。
まず早速気持ちの入ったプレーを見せてくれたのが松本でした。開始1分のところで藤枝CF9渡邉に入るボールに対して、仙台戦で見せたような相手陣でも積極的にボールを奪うプレーを見せ、反対にファウルまでもらいチャンスを作りました。
渡邉が試合後に、攻守ともにチームとしても個人としてもやりたいことができなかった、とインタビューで言っていた通り、松本がJ2トップスコアラーであった渡邉に負けなかったことが大きかったと思います。
前節栃木の宮崎に質的優位をとられてしまい、終盤押し込まれたりと難しい展開になってしまいましたが、試合の入りから今日はやられないという気概が見えた気がしました。
もちろん、松本が渡邉に負けなかっただけで失点が0になるわけではないです。まずボール非保持のところ。
藤枝の前線9渡邉・10横山・8岩淵が割と近い距離で中央に寄り、RWB24久保、LWB27榎本がサイドに広く幅をとります。
この5人に対してRWGの高橋をRWBの位置に落とし最終ラインを5枚に。その前に右から矢島、神垣、五十嵐、小林と並びワントップに河野をおき、5-4-1の布陣を引きました。
相手のゴールキックやいったん相手陣でボールが落ち着いた状態では、ハイプレスというわけではなく、まずミドルゾーンで構えて藤枝の出方をうかがうような形でした。
仙台戦では大槻がある程度、ファーストディフェンダーとして相手のボールを誘導するサイドを決めるような形でした。今節は河野と大槻のパーソナリティ、また仙台と藤枝のチームの違いもあったかもしれませんが、河野はどちらかというと相手がどう動かしてくるかを見つつプレスを開始。それに合わせて後ろもあわせて動いていく形でした。
藤枝のGK上田がDFラインに入ってビルドアップに参加をしてくるので、矢島がスイッチを入れる場合もありました。
開始10分までの間は多少ロングボールであったり、多少ボール処理が甘い場面もあり、自陣のニアゾーンをとら、危ない展開も続いていましたが、ここから徐々にアジャストしていきます。
先の松本のところでも書きましたが、やはりまず個人で藤枝の前線をしっかり捕まえ始めたところから潮目が徐々に変わったと思います。
ただ、藤枝もロングキックでひっくり返してくることがあるので、序盤は裏を取られるような場面もありましたが、それに対しても最終ラインの5人は敵にはがされることなく対応できていたと思います。もちろん後半からはその裏のボールが増えた際はGK寺門もしっかり準備ができていました。
このように後ろがしっかり対応ができていたのも、前線の選手たちがプレスをかけてコースを制限するなどの作業ができていたからということも挙げられます。
指標としている『高い位置でボールを奪う』作業については下記の藤枝のボールロスト位置を見てもらえればわかりますが、わかりやすくレノファの2列目ところで線が引かれたように空白があり、ここから前へ取りに行っていたように見えるかと思います。
象徴的なシーンとしては19分からの2分くらい。
・CBは相手の前線にボールが入ったら厳しくマークしボールを奪う
・ボールをつなぎ、受けた選手は逆サイドを見る
・奪われても即時奪還を狙う
・奪ったらゴールを目指す
が出ていたかと思います。
まず、8岩渕に出たところでへ何がチェイス。ボールをとることはできませんが、敵陣へボールを下げさせます。ここで安直にボールを下げさせたことで、小林・五十嵐・河野がボールホルダーへの距離を狭めてここで河野がボールを奪います。左サイドでボールを奪ったところで前と高橋の右サイドの選手は一気に相手がボール保持で空けた形になっている右サイドを駆け上がっています。
一旦ボールを落ちかせるために一度最終ラインまでボールを戻しますが、ヘナン→沼田→小林とつなげていき、小林がキープして五十嵐へ。五十嵐はボールを右サイドへ流せるようにターンをします。そこから矢島へ大きくサイドチェンジをして展開していきます。
ここから右サイドで押し込んでいき、エリア付近の五十嵐のところで奪われますが、奪われた五十嵐が藤枝にはゲインをさせず、藤枝陣の深いところにボールを留めさせ、もう一度高い位置で小林が奪って、五十嵐→矢島→河野 と細かく繋いでゴールを狙っていきました。
上記4つ以外にもポイントはあると思いますが、わかりやすく監督や選手が発信してくれているキーワードというか、特徴的なプレーについてはエスナイデル監督初戦の甲府戦との比較しても出てきていると思います。
プレーの再現性もあり、試合を経るたびに成功体験と蓄積していきます。
タイトルにも使わせていただきましたが、エスナイデル監督の
”チームとして堅い仕事はできています。確実に、確実なプレーができているということも重要だと思います。”(引用元:第23節 藤枝MYFC | レノファ山口FC)
という言葉にも手ごたえが表れているのかなと思います。
2)五十嵐太陽:ライジング(未明)
しかし、それだけで勝ち点3がとれるほど甘くはありません。今節エスナイデル監督が前節から違いを作ってきた主なポイントの1つが五十嵐であったと思います。
”アタッキングサードに入った時のクオリティーや発想は自分たちの見せどころ”
とエスナイデルさんは仰っているようですね。
矢島は試合後インタビューで、
”いつも同リズムにならないようにする。もう一度サイドを変えて相手を振ってみる。といったようなことを挙げ、その上でもっと自分を見てほしいし、自分も受けに行かなければならない”と残していました。
そして今節もっとも矢島を見ていた人間は誰か、と考えると今節IHで先発した五十嵐だったと思います。
五十嵐はエスナイデル体制では初先発でした。監督一つで使われた方は変わるものだと思ったのは、矢島との縦関係。
名塚前監督とエスナイデル監督。フォーメーション上は4-3-3で同じIHとして彼ら二人を並べましたが、名塚監督は矢島をアンカーの佐藤謙介の横であったり、五十嵐を多少前においてそこをリンクさせるような役割を与えていました。
特に第1節や2節で目立ったのはCF皆川やWG小林の周りに五十嵐を置き、五十嵐が後ろからのボールをターンで前を向いてボールをゴール前へ運んでいく姿だったと思います。
しかし、今節あったのは矢島のほうが前目。ボール非保持のポジションの関係はありますが五十嵐は神垣の隣でボールを引き出したりと、矢島へボールを繋ぐ、つなぐ道を作るような役割を担っていました。今季の第1節とは逆の立場と言いましょうか。
栃木戦のブログ内で相手ボランチ脇を「いつ、誰が使うのか」ということを書きましたが、それに似ていて「五十嵐にどこで前を向かせて、次にどのようなプレーをしてもらうのか。」こんな考えができないか。ちょっと書いていきたいと思います。
前提としてあるのは「矢島にはゴールに近い所、フィニッシュワークに関わる場所でのプレーをしてもらう」というのが今のチームとしてはあると思います。
直近の2節でIHとして先発したのは矢島と河野。河野はゴールに近いところで仕事をするタイプですので、矢島がボールを持てばCF大槻+河野などゴール前の選択肢は増えます。ただ、フィニッシュワークのあたりで関わる河野が多少試合から消え気味になる時間があります。
試合の展開であったり、相手ありきで変わってしまったり、出場時間で差が出てしまうのですが下記参考までに。
仙台戦
河野:出場時間88分 パス数15本
矢島:出場時間68分 パス数27本(交代で入った池上22分 6本)
栃木戦
河野:出場時間53分 パス数14本(交代で入った池上37分 8本)
矢島:出場時間85分 パス数35本
藤枝戦
五十嵐:出場時間89分 パス数32本
矢島:出場時間81分 パス数31本
と両IHでのボールの関わりで、1試合のみのデータではありますがIHのタッチ数が上がっていること、両者が同じくらいボールに関わっていることがわかります。
エスナイデル監督就任以来、神垣が日に日に頼もしくなっており、佐藤謙や名塚レノファ後期の矢島のようにアンカー位置でボールを振り分けています。
ただ、彼だけではなく他のボールの引き出し口もつくったらどうどうか?そうなるとじゃあ誰か?となった時に今節チョイスされたのが五十嵐だったのかなと考えました。
五十嵐自身が「ボールを持った時に逆サイドに展開したり、自分のターンだったり、ボールをどんどんと引き出してボールに触ったりするようには言われていました。」という反省を交えつつ、監督からの指示を語っておりました。
藤枝の渡邉の「守備においても自分たちのところからなかなかスイッチを入れられなくて」という言葉は、五十嵐だけの力ではありませんが、ビルドアップ時にボールの出どころをあまり定めさせなかったということにつながるかなと思います。
上記に挙げた19分のところはわかりやすかったと思いますが、彼が得意のターンを交えつつ、ゲームの組み立てにも関わる。前を向いてゴールへ向かうという序盤の仕事ではなく、キーマンとなる矢島へボールを運ぶ。前へつなぐことで後ろの選手ともどもチーム全体を押し上げていくプレーというのが求められていたのかなと思います。
もちろん、この試合シュートも3本を数えチーム最多。ゴールから多少離れてのプレーでもゴール前へ行く機会は失っていませんし、チャンスも作れています。フィニッシュ精度や変わらずプレス強度は今後も課題となってきますが、エスナイデル監督になってからの五十嵐の使われ方も楽しみに感じます。
15:30のところでは神垣がボールを奪い、矢島へ付け、すかさず五十嵐は横にフォローに入り、相手のプレスがあったものの難なく前方の河野へつけるプレー。
19分には上述したようにサイドチェンジ。
33分は松本から河野へあてて、その落としたボールを神垣がワンタッチで河野を追い越していく五十嵐へ。そのまま運び小林のクロスへ繋げる
42分クリアボールに対して河野が競ったセカンドボールをワンタッチで矢島へつなぐ。
見直す機会があれば是非特に前半の五十嵐を見ていただければと思います。
※あともう1シーンエリア内で矢島に出したかったのかなという場面があったんですが、メモ紛失してしまいました。
話を試合に戻して後半へ。
藤枝の須藤監督の「マイナスのスプリントが非常に多くて、前線の選手も疲弊してしまった(中略)中途半端に前向きに奪われて、サイドの深くまで帰陣しなければいけないというのが続いた。」
ハイプレスで奪ってカウンター。相手を制限してビルドアップを引っかける。相手が出てきたらシンプルに裏を使う。といった形で前半は藤枝の背後をとるなど相手陣へ押し込めていました。また、前線の選手に入ればCB陣が対応していました。
ここで須藤監督は下手に引っかけられるくらいならという考えからか、割とつなぐというよりもレノファのDFラインよりも裏へ出すようなボールを増やしたかなと思います。
もともと上田というキック精度の高いGKがいるので、55分のようなクロスをキャッチしたところからのロングキックでエリア内まで運ばるシーンも。また裏へ走れる矢村なども入れてレノファの最終ラインを下げるような選手を入れてきました。
それに対してレノファもやり方はあまり変わりませんでしたが、どちらかというと左サイドの奥を狙っていたと思います。RWB久保は現在J2アシストランキング1位。彼のプレーエリアを下げることや守備で体力を奪うことなどがあったと思います。
ただ、お互いのプレス強度や最後のところで体を張るなど、消耗戦の末のスコアレスドローという形でタイムアップとなりました。
シュートで終わるなど自分たちの形が出せなかった藤枝と、形は出したものの精度に欠いたレノファ。判定勝ちがある協議ではないので、0-0妥当であったかと思いますが、すくなくとも栃木戦よりも勝ちの目はあったかと思います。
相手のやり方というのもありますが、3試合連続で無失点。そしてゴールの臭いも多少する。という展開。失点をしていないというポジティブな要素があるのがなかなか勝てなかったシーズン序盤とは違います。
守備組織の整備は終わりここからは選手の質にもかかわりますが、得点をとるフェーズに取り掛かってくるのかなと思います。
エスナイデル監督になってから、前半の強度を90分保たせるのはほぼ無理なので、どこかで体力を温存する時間は必要になってきます。
ただ、それでもやはり後半は強度がわかりやすく落ちてしまいます。この辺りは夏場になりリカバリーも大事になります。その中でいかにアタッキングサードの質を高められるのか。
内容は上向きつつあるもののやはりまだ降格がちらつく順位であるのには変わりありません。また得失点差もよくないこともあり、勝ち点で他のチームを上回らねばならない中、どのように7月シリーズを戦い抜けるのか。
今後を占う1か月になりそうです。
一貫してエスナイデル監督はインタビューで「高い位置でボールを奪うこと」を話題にされていますが、選手からのコメントなどでちょろちょろ違う情報が出てくるのは面白いですね。
そしてチームの意図が見えてきているので、試合への感情移入もしやすくなっているのではないかなと思います。
そんな状況で迎えるのが山形。いつの間にか抜かれて、背中も多少遠くなってしまいました。渡邉元監督さすがだなと思いますが、今は敵将。
ホームでの勝ち点3を期待したいと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
(※文中敬称略)